道民→内地へ

ぼくが20代半ばの頃、

実は、僕の出身は北海道の札幌でして、
当時の(今もそうなのかな…)の北海道というのは、
ホントに日本か?と疑いたくなるくらい仕事が無かったんです

真冬のガソリンスタンドの求人に100人以上殺到する…
それくらい仕事がなかったんです

よしんば仕事にありつけたとしても、賃金が激安!
暖房用の灯油代、冬用タイヤなど負担も多く

一人暮らしの生活は極貧のスパイラルである

見ろやこのうんこー!!
カッチカチやぞ!!
カッチカチやぞ!!

常にそんな感じ……
(この当時はザブングルはまだいなかったけど…)

そしてなにより、ぼくは雪と寒さが大キライである

その他モロモロの理由により
ぼくは、なんとしても北海道を脱出するべく、情報を模索しはじめた。

ちなみに道民は、本州のことを

「内地(ないち)」

と呼ぶ。

自ら、北海道を「外地」と認定しているような自虐的な単語である

で、なんとしても内地に移住することはできないであろうかと右往左往する日々。

今であればネットで色々検索できますが、
当時、パソコンやネットなんて、まだまだ雲の上の存在

そうすると、どうやったって情報源は求人情報誌になってしまいます。

そこで見つけたのが、派遣会社の求人広告。

なんでも、

内地の工場とかで働けば月収30~40万円が簡単に稼げる

とか

現地まで飛行機代・交通費は全額支給

とか

寮もあるから、住むところにも困らないよ!

とか

アットホームな社風で女性も多く、もしかしたら恋の予感も……

とか

情報不足の道民の20代半ばのうんこカチカチ君にとっては
楽園のパラダイスへのお誘いにも思えたのである

当時はまだLCCなんかも無かったので、
新千歳空港から羽田空港までの飛行機代が片道5万円以上

真冬のマイナス20度の日にガスを止められてしまうような生活のぼくには
悲しいかなとても捻出できる金額ではなかった…

そんな中の「交通費全額支給」

良いことづくめではないかっ!!

さっそく電話→すぐに面接。

札幌市内の雑居ビルの一室が会場である

面接といっても、美人なお姉さんが
「ええーっすごーいっ」
とか
「君、カッコイイから絶対にモテるよー」
とか
「アタシも内地の人が好きかもぉ…」
とか

色々イヤミを言われる普通の入社面接とは明らかに違うのである

今にして思えば
“カモを逃がさないための戦略”
である

すっかりいい気になったアホ面のぼくは
何の書類かよくわからない雇用関係の書類に署名

一応、手の指が10本ちゃんとあるかとか、
そんなトコロのチェックだけして
どうやら合格したらしい

美人なお姉さん
じゃあ、○日に待ってるねぇ~
絶対来てよねぇ~、アタシ、絶対にまた会いたいからぁ
まるで恋人気分である

それまでの一人暮らしの部屋を引き払い
荷物を実家の物置に押し込んで

必要最低限の生活物資だけをカバンに詰めこんで集合場所へ

「あっ来たきたぁ~こっちこっちぃ~」
あのお姉さんである

ぼくの心はすでに恋の予感である
「このお姉さん、絶対にぼくに興味あるはずだっ」
と、根拠のない自信をたずさえ、
大型バスで千歳空港まで護送される

バスには他にも10人程度の老若男が乗り込んでいる

老若男……

そうです、男ばっかりで、女はそのお姉さんだけ

そして、その10人は空港から指定の飛行機の乗せられて、一路羽田空港へ飛び立つ

羽田空港に着くと、今度は現地の送迎バスという名の護送車が待っている

そこでは、北海道以外の他の都府県から集められたと思しき老若男が集合し、40人くらいの大所帯と化している。

老若男…

そう、女はあのお姉さんしか……

アレっ?
あのお姉さんがいないっ!!

ぼくは心の中で叫んだ
「お姉さんはどこですかぁーー!?

あのお姉さんはどこですかぁーー!?」

そうです…
あのお姉さんは、北海道の空港まで連れてくるためのエサでした

内地の空港に降り立ってしまえば、もう派遣会社についていくしかありません。

もう、エサは必要ありません

ぼくは胸板にアゴの跡がつくほどガックリうなだれて
護送車にゆらり揺られて、どこぞの町へと連れて行かれる

着いたのは神奈川県厚木市

廃墟の病院跡地のように古くて不気味な建物

看板にはおどろおどろしい書体で

「日産車体浅間山寮」

と書いてある

「な・・なんじゃココは・・」

日産の社員さんとかも住んでいる独身寮を
この派遣会社が間借りしているらしい

食堂的な場所に一同に集められ
色々なルール説明

こんな山の中腹にあるのに、自家用車や原付は持込禁止だの

一時間に一本程度、駅までのバスがあるから、
買い物等は休みの日にそのバスを利用しろ だの

寮費は月4万円
ふとん代が月5000円 だの

食堂はあるけど、おのおの事前にプリペイドカードを購入し、
それで支払うように だの

今にして思えば、システムが怪しさ満点である

そして各自、部屋を割り当てられる

ぼくの部屋は3階の6畳くらいの和室である

部屋の前まで行き、ネームプレートが掛かっているので、自分の名前を確認。

んん??

同じ部屋にもうひとつのネームプレートが掛かっている

ふいに、背後から東北弁で話しかけられる
「あ、Y田です。。よ。よろすくおねげぇすます」

なっ!!
相部屋っ!!

マジかっ!!

このボッロボロの6畳の部屋にふたりも詰め込まれて
しかも一人4万円、ふたりで8万円も取るんかっ!!

絶対、この派遣会社、黒いよなぁ…

こうして、僕はY田君とこの部屋に住むことなった

唯一の救いは、Y田君は20歳の青森県三戸町というところの出身で
とても純粋な人懐っこい色白な青年であったことである

ぼくはこのとき25歳だったので、アニキでありお父さんのような感じで慕ってくれていた。

20歳なのに、夜はかならず養命酒を飲んで
「わ、これがねぇと、カラダの疲れがとれねぇっす」
などと、およそ若者とは思えないほど虚弱体質であった

ある日
寮のゴミ置き場で、どギツい洋物のスカトロ系のエロ本を拾ってきたY田君

そのときはちょうどお盆時期で
テレビでは「火垂るの墓」が放送されていた

そして、Y田君は、あろうことか
火垂るの墓を見ながら、同時進行でスカトロ系エロ本も読み出したのである。

テレビ側では戦争の悲惨さ、命のはかなさを説いている。
“節子ぉ”、”にいちゃんっにいちゃんっ”、”節子ぉっしっかりしいや”、

エロ本側では、うんこを食べまくったり、巨大なシャンパングラスで飲尿している緊縛された白人の女が白目剥いていたり

内容のギャップが激しすぎるのか
Y田君は、目を白黒させながら

「わ、世の中が、よぐわがんねぇっす…」

などと混乱していた

工場に配属されても、ぼくは何の恨みがあるのか
もっとも退職率が高いとウワサされる
地獄の28工程という場所に配置され
朝から晩までジャッキーチェンのように動き回る

Y田君は虚弱体質であるため、サブラインという、
おじいちゃんとかがのんびりとテープ貼ったりする場所である

工場に配属されると、最初、40人くらいいた同期の派遣労働者たちは
一週間も経たずに半分以下の人数に減った

自動車工場の製造ラインというのは、想像しているよりもキツく
しかも、派遣労働者は使い捨て扱いなので
正社員でも入らないような過酷な工程に入れられるのである

一ヶ月も経たないうちに、同期は10人以下になった

すると、また、新たな一団がやってきて
同じように食堂で説明をうけ
工場に配属され
次々と辞めていく

ちなみに、派遣労働者には任期があって
通常は数ヶ月~半年程度で一区切りで
そこから、契約更新するかどうかを問われます

当然、親会社の日産の工長から、働きを認められ、
お墨付きをいただかなければ
本人が働きたくても雇い止めになってしまう

また、受注状況によって任期前にリストラされる場合もある

製造業では
忙しい時期とヒマな時期があります

忙しい時期は人もたくさん必要で

ヒマな時期は人は要りません

ですが、正社員はヒマだからといってもクビにすることは
基本的にできませんので

そこで、使い捨ての派遣労働者を切り捨てて
人件費を調整するのである

先のY田君も、20歳の若さで
任期満了前にリストラされるという憂き目にあっています

ぼくが、地獄の28工程でボロボロになって部屋に帰ってくると
Y田君の姿が見当たりません

あれっ?

姿が見えないどころか、部屋にはY田君の荷物もありません。

おやっ?

そして、ぼくのふとんの枕元に

セブンスターが1カートン置いてあって(当時、僕はまだ喫煙者だった)

紙の切れ端みたいなのに

「お世話になりました。Y田」
と書いてある

その翌日、工場での朝礼で工長からY田君がリストラされた旨を聞いた。

ほんの数ヶ月であるが、

同じ部屋に住み、同じ釜の飯を食い、
休みの日は一緒に町にいったり
東京に行って、ふたりで
「やっぱトウキョウはスゲェなぁ~」
なんて高層ビルを見上げていた日々が
オーバーラップして脳裏をよぎる

その夜から
6畳間に一人だけになった僕

最初は知らない奴と相部屋なんて
カンベンしてくださいよぉぉ
なんて思っていのがウソのように
寂しさが部屋を漂っている

今、もし生きていればY田君は35歳くらいであろう
元気にしているのであろうか

派遣でやってくる人々は
色々事情を抱えていることもあるので
お互いに連絡先などはあまり交換しないのが暗黙のルール

なのでY田君の所在は、今となって知るすべもないが
幸せになっていることを祈るばかりである

「道民→内地へ②」へ続く

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